「君自身であれ! そうすれば世界は豊かで美しい!」
 私は、この言葉が青春時代好きであった。異性への目覚め、親との関係に心を悩ますこともあろう。社会に出ても複雑な人間関係や社会の過酷さ、不平等、矛盾などに憤りを覚えることもあろう。純粋であればあるほど、真剣であればあるほど、その思いは深く強い。
 しかし、大切なことは環境ではない。一切は自己自身の内にある。何かに直面したときに、悪に妥協し、堕落していくか、反対にその煩悶を、大いなる成長と幸福への飛躍台としていけるか。ともかく、すべての環境は、自分自身を磨き、人間完成への修業をしていける場だと自覚することである。自らの「悩み」と「運命」を全身で受け止め、自己自身との戦いに、敢然と挑戦していったときにこそ「胸中の珠」は磨かれ、自分自身の人生が確固と開かれていくといえるのではないだろうか。


『私の人間学 上』