一月三日の朝、彼は総本山の未来の構想を思い描きながら、宗門の日達上人と境内を散策した。
大化城の横を通りかかると、一本の杉の巨木が横たわっていた。
日達が伸一に語った。
「山本先生、この木は、伊勢湾台風の時にも微動だにしなかったのですが、木食虫に食い荒らされて、あえなく枯死してしまったんです」
「そうですか。用心すべきは身中の虫ですね……組織も、個人も。常に、身中の敵、己心の賊と戦うことを忘れれば、そこからやられてしまいます。この杉は令法久住のための大事な戒めのように思います」
日達は、にこやかに笑いながら頷いた。
この日、新年初の全国幹部会が行われた。
伸一は、ここでも幹部自らの一念の変革を訴えた。勝利の太陽は、わが胸中にあり。臆病という、己心の敵を討て――と。
更に、呼吸を合わせることの大切さを強調した。
「組織の強さは、どこで決まるか。それは団結であり、幹部が呼吸を合わせていくことです。幹部同士の呼吸が合わない組織というのは、一人一人に力があっても、その力が拡散してしまうことになります。
たとえば、会合で支部長が『学会活動をしっかりやって、功徳を受けていきましょう』と指導する。それに対して、隣にいる副支部長が『生活を離れて信心はない。仕事を一生懸命にしよう』と言えば、まとまる話も、まとまらなくなってしまう。
あるいは、支部長が『わが支部は教学をしっかり勉強していきたい』と言った時に、『実践のない教学は観念です。折伏しなければ意味がない』と支部の婦人部長が言えば、聞いている人は、何をやればよいのかわからなくなってしまう。
これは呼吸が合わない典型です。どの人の話も学会が指導してきたことではありますが、これでは、指導が“対立″して混乱をきたすことになる。
これは、呼吸を合わせようとしないからです。呼吸が合えば、同じ趣旨の発言をしても、自然に言い方が違ってきます。
たとえば、支部長が『教学をやりましょう』と言ったら、『そうしましょう。そして、実践の教学ですから、題目を唱え、折伏にも頑張っていきましょう』と言えば、聞いている人も迷うことはない。これは“対立”ではなくて、“補う”ことになります。
野球でも、強いチームは巧みな連係プレーができます。一塁手が球を追えば、誰かが代わりに一塁に入っている。これも呼吸です。一塁を守るのは彼の仕事だから、自分には関係ないといって何もしなかったら、試合には勝てない。
また、ランナーが出て、得点のチャンスとなれば、自分がアウトになっても、送りバントや犠牲フライを打つこともある。大切なのは、自分を中心に考えるのではなく、勝利という目的に向かい、呼吸を合わせていくことです。そこに、自分自身の見事なる成長もある。
ともかく、今年もまた、鉄の団結をもって、壮大なる凱歌の歴史を開いていこうではありませんか」
伸一の会長就任以来、全国各地に、次々と新しい支部が結成されてきたが、その強化こそ、この『躍進の年』の大きな課題の一つであった。伸一は、一年の出発にあたって、支部を強化する要諦を語っておきたかったのである。
『新・人間革命』仏法西還の章
*******
「常に、身中の敵、己心の賊と戦うことを忘れれば、そこからやられて」しまう。
特に今、「勉強」って戦いは、本当に自分との戦い以外ない!!
大化城の横を通りかかると、一本の杉の巨木が横たわっていた。
日達が伸一に語った。
「山本先生、この木は、伊勢湾台風の時にも微動だにしなかったのですが、木食虫に食い荒らされて、あえなく枯死してしまったんです」
「そうですか。用心すべきは身中の虫ですね……組織も、個人も。常に、身中の敵、己心の賊と戦うことを忘れれば、そこからやられてしまいます。この杉は令法久住のための大事な戒めのように思います」
日達は、にこやかに笑いながら頷いた。
この日、新年初の全国幹部会が行われた。
伸一は、ここでも幹部自らの一念の変革を訴えた。勝利の太陽は、わが胸中にあり。臆病という、己心の敵を討て――と。
更に、呼吸を合わせることの大切さを強調した。
「組織の強さは、どこで決まるか。それは団結であり、幹部が呼吸を合わせていくことです。幹部同士の呼吸が合わない組織というのは、一人一人に力があっても、その力が拡散してしまうことになります。
たとえば、会合で支部長が『学会活動をしっかりやって、功徳を受けていきましょう』と指導する。それに対して、隣にいる副支部長が『生活を離れて信心はない。仕事を一生懸命にしよう』と言えば、まとまる話も、まとまらなくなってしまう。
あるいは、支部長が『わが支部は教学をしっかり勉強していきたい』と言った時に、『実践のない教学は観念です。折伏しなければ意味がない』と支部の婦人部長が言えば、聞いている人は、何をやればよいのかわからなくなってしまう。
これは呼吸が合わない典型です。どの人の話も学会が指導してきたことではありますが、これでは、指導が“対立″して混乱をきたすことになる。
これは、呼吸を合わせようとしないからです。呼吸が合えば、同じ趣旨の発言をしても、自然に言い方が違ってきます。
たとえば、支部長が『教学をやりましょう』と言ったら、『そうしましょう。そして、実践の教学ですから、題目を唱え、折伏にも頑張っていきましょう』と言えば、聞いている人も迷うことはない。これは“対立”ではなくて、“補う”ことになります。
野球でも、強いチームは巧みな連係プレーができます。一塁手が球を追えば、誰かが代わりに一塁に入っている。これも呼吸です。一塁を守るのは彼の仕事だから、自分には関係ないといって何もしなかったら、試合には勝てない。
また、ランナーが出て、得点のチャンスとなれば、自分がアウトになっても、送りバントや犠牲フライを打つこともある。大切なのは、自分を中心に考えるのではなく、勝利という目的に向かい、呼吸を合わせていくことです。そこに、自分自身の見事なる成長もある。
ともかく、今年もまた、鉄の団結をもって、壮大なる凱歌の歴史を開いていこうではありませんか」
伸一の会長就任以来、全国各地に、次々と新しい支部が結成されてきたが、その強化こそ、この『躍進の年』の大きな課題の一つであった。伸一は、一年の出発にあたって、支部を強化する要諦を語っておきたかったのである。
『新・人間革命』仏法西還の章
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「常に、身中の敵、己心の賊と戦うことを忘れれば、そこからやられて」しまう。
特に今、「勉強」って戦いは、本当に自分との戦い以外ない!!