◆ よき先輩・よき友情・よき先生こそ
一、思想家ヘルダーについて知っている人はいますか?〈「はい!」と多くの学生が返事を〉
すごい。これなら話さなくてもいいですね。〈「いえ、お願いします!」と会場から〉
ドイツの思想家であり文学者であるヘルダー。
彼は、18世紀後半、「人間性の解放」を訴える革命的なドイツの文芸運動「疾風怒濤(ジュトルム・ウント・ドラング)」の若き先駆者です。
代表作に『人類の歴史哲学のための諸理念』などがあります。
21歳の無名の学生であったゲーテは、自ら求めて、5歳年上のヘルダーを師匠として学びます。
いい先輩が大事です。いい友達も大事。いい後輩も大事。人生の宝は、人と人とのつながりです。
ヘルダーのおかげで、ゲーテは、広い世界の文学、世界の諸民族の詩、民謡などへの目を開いていきます。
その鍛錬の時期を「素晴らしい、予感にみちた、仕合せな日々」(山崎章甫訳)とゲーテは呼んでいます。
よき先輩、よき友情、よき先生、これで人生は決まるのです。
ヘルダーは大変厳しかった。しかしゲーテは、“自分が傲慢になる可能性を正してくれた”と後々まで感謝しています。
◆ 苦難の時代ほど確かな教育を
一、ヘルダーは呼びかけました。
「時代の澱(おり)のなかにあっても絶望してはならない。何が襲い、何が邪魔しようとも、――教育をつづけるのだ。苦難が大きいだけ、いっそうよい、たしかな、しっかりした教育をつづけるのだ」(小栗浩訳)
これが彼の叫びです。大事なのは教育です。人間しか教育は受けられないのです。
大学まで進み、教育を受けられる――どれほど皆さんのお父さん、お母さんは偉いか。深く感謝しなければならない。
一、ヘルダーは、すでに文壇の若きリーダーとして活躍していました。
ゲーテは、ヘルダーがその地に滞在していることを知り、ぜひ会いたいと願っていた。
ある時、偶然、ヘルダーの姿を見かけるや、ゲーテは青年らしく、自分から声をかけます。
毎日のように、足繁く学びに行きます。ヘルダーの「該博な知識」、「深い識見」に、ゲーテは心を打たれます。
◇ 努力! 「最高」を目指して
◆ 虚栄を捨てよ!
一、このヘルダーとの対話によって、ゲーテは、文学とは何かを学んでいきます。
ヘルダーの厳しさは並大抵ではなかった。ゲーテに対しても、それはそれは厳しくあたりました。叱責や非難、罵倒、嘲笑。そういうふうにして試練を与えた。
また、ゲーテの学問に見栄や虚飾などを感じると、ヘルダーは、辛辣な言葉を投げつけました。
虚栄をかなぐり捨ててこそ、一流の人になれるのです。
ゲーテは、その厳しさ、痛烈さにも、喜んでついていった。なんとしてもついていこうとするゲーテも偉い。
偉大な人間が、偉大な人間をつくる。それが本当の師弟であり、友情です。
しかし今、ヘルダーのように厳しくしたら、みんなどこかへ逃げ出すでしょう(笑い)。
また逆に、つく人をまちがえたら惨めです。皆さんも、よくよく心してください。
ゲーテは、充実した青春の日々を、こう振り返っています。
「ただの一日として、私にきわめて有益な教訓をうけない日はなかった」(河原忠彦訳)
それまでのゲーテは、作品を書けば、いつも周りから称賛されました。
しかし、ぬるま湯のような世界からは、本当の実力は育ちません。
ゲーテは、わが身を振り返って、「こんな義理のお世辞からは、けっきょく空疎な、互いの自己満足にしかすぎない表現が生ずるだけである」(同)と言っています。
生ぬるい人生では、生ぬるい作品しかできない。
慈愛あふれる厳しさを知らなければ、本当の成長はない。人間革命できない。偉大な作品も生まれません。
ゲーテには、求道の心が光っていました。
「ときどきより高度の技量を目ざして鍛えなければ、そんな空語を弄しているうちに個性はわけなく失われてしまうものである」(同)
二度とない青春時代だ。本当に訓練してほしい――その心が自分を大きくする。強くする。
ゲーテは自ら望んで、厳しい先輩につきました。
人生、一人では勝てない。成長できない。だから学校がある。友人がいる。人と人の間にいるのが「人間」です。
ゲーテにとって、ヘルダーの峻厳な薫陶を受けること、それ自体が喜びであり、感謝でありました。
ゲーテ自身、こう語っています。
「自己満足、うぬぼれ、虚栄、自負、高慢といったような、私の心中に巣食い、あるいは働いていたいっさいのものが、きわめて厳しい訓練にさらされることになったのは、なんとしても幸福といわざるをえなかった」(同)
訓練してくれる人がいるということが、成長を目指す人間にとって、一番幸せな場合がある。
かといって、威張った傲慢な人間に見くだされては不幸です。見極めるのは皆さんです。自分が聡明さをもつことです。
一、ゲーテは語っています。
「人間が一人でいるというのは、よくないことだ」「ことに一人で仕事をするのはよくない。むしろ何事かをなしとげようと思ったら、他人の協力と刺戟が必要だ」(山下肇訳)
一人でコツコツやることは大事です。しかし、それだけでは、大業は成し遂げられない。
◆ 今、人生の骨格を
一、ゲーテは、20歳前後の学生時代に、詩人、作家としての骨格を築いていった。
20歳前後は一番大事です。多くのことが、ここで決まる。私の体験からも、そう言えます。
「自分自身の骨格を築く」ことが、学生時代、青年時代の一つの目的であることを忘れてはなりません。
後に、75歳のゲーテは、進路の相談に訪れた青年に対して、「重要なことは」「けっして使い尽すことのない資本をつくることだ」(同)と諭し、その青年にふさわしい道へと導いていったことも有名な話です。
このことを、よく思索してもらいたいのです。
青年は、自分自身の目的を真剣に見つめよ!
そのための揺るぎない土台を完壁につくれ!
これもまた、ゲーテの人間学の一つでしょう。
ゲーテの言葉に、「いやしくもなんらかの道にたずさわる人は、最高のものをめざして努力すべきである」(小栗浩訳)とある通りです。
2003.03.10
人間ゲーテを語る(創価大学第1回特別文化講座)
*******
学園・創大と通わせてもらって、周りは誉めてくれる人ばっかり。
大学3年の時に、厳しく訓練してもらった学生部本部牙城会。
そして、冷酷に成績を突きつけられるロースクール。
ありがたい話だよね(笑)
これから、もっともっと厳しい人に出会いたい。
もっともっと自分に厳しい人間になりたい。
一、思想家ヘルダーについて知っている人はいますか?〈「はい!」と多くの学生が返事を〉
すごい。これなら話さなくてもいいですね。〈「いえ、お願いします!」と会場から〉
ドイツの思想家であり文学者であるヘルダー。
彼は、18世紀後半、「人間性の解放」を訴える革命的なドイツの文芸運動「疾風怒濤(ジュトルム・ウント・ドラング)」の若き先駆者です。
代表作に『人類の歴史哲学のための諸理念』などがあります。
21歳の無名の学生であったゲーテは、自ら求めて、5歳年上のヘルダーを師匠として学びます。
いい先輩が大事です。いい友達も大事。いい後輩も大事。人生の宝は、人と人とのつながりです。
ヘルダーのおかげで、ゲーテは、広い世界の文学、世界の諸民族の詩、民謡などへの目を開いていきます。
その鍛錬の時期を「素晴らしい、予感にみちた、仕合せな日々」(山崎章甫訳)とゲーテは呼んでいます。
よき先輩、よき友情、よき先生、これで人生は決まるのです。
ヘルダーは大変厳しかった。しかしゲーテは、“自分が傲慢になる可能性を正してくれた”と後々まで感謝しています。
◆ 苦難の時代ほど確かな教育を
一、ヘルダーは呼びかけました。
「時代の澱(おり)のなかにあっても絶望してはならない。何が襲い、何が邪魔しようとも、――教育をつづけるのだ。苦難が大きいだけ、いっそうよい、たしかな、しっかりした教育をつづけるのだ」(小栗浩訳)
これが彼の叫びです。大事なのは教育です。人間しか教育は受けられないのです。
大学まで進み、教育を受けられる――どれほど皆さんのお父さん、お母さんは偉いか。深く感謝しなければならない。
一、ヘルダーは、すでに文壇の若きリーダーとして活躍していました。
ゲーテは、ヘルダーがその地に滞在していることを知り、ぜひ会いたいと願っていた。
ある時、偶然、ヘルダーの姿を見かけるや、ゲーテは青年らしく、自分から声をかけます。
毎日のように、足繁く学びに行きます。ヘルダーの「該博な知識」、「深い識見」に、ゲーテは心を打たれます。
◇ 努力! 「最高」を目指して
◆ 虚栄を捨てよ!
一、このヘルダーとの対話によって、ゲーテは、文学とは何かを学んでいきます。
ヘルダーの厳しさは並大抵ではなかった。ゲーテに対しても、それはそれは厳しくあたりました。叱責や非難、罵倒、嘲笑。そういうふうにして試練を与えた。
また、ゲーテの学問に見栄や虚飾などを感じると、ヘルダーは、辛辣な言葉を投げつけました。
虚栄をかなぐり捨ててこそ、一流の人になれるのです。
ゲーテは、その厳しさ、痛烈さにも、喜んでついていった。なんとしてもついていこうとするゲーテも偉い。
偉大な人間が、偉大な人間をつくる。それが本当の師弟であり、友情です。
しかし今、ヘルダーのように厳しくしたら、みんなどこかへ逃げ出すでしょう(笑い)。
また逆に、つく人をまちがえたら惨めです。皆さんも、よくよく心してください。
ゲーテは、充実した青春の日々を、こう振り返っています。
「ただの一日として、私にきわめて有益な教訓をうけない日はなかった」(河原忠彦訳)
それまでのゲーテは、作品を書けば、いつも周りから称賛されました。
しかし、ぬるま湯のような世界からは、本当の実力は育ちません。
ゲーテは、わが身を振り返って、「こんな義理のお世辞からは、けっきょく空疎な、互いの自己満足にしかすぎない表現が生ずるだけである」(同)と言っています。
生ぬるい人生では、生ぬるい作品しかできない。
慈愛あふれる厳しさを知らなければ、本当の成長はない。人間革命できない。偉大な作品も生まれません。
ゲーテには、求道の心が光っていました。
「ときどきより高度の技量を目ざして鍛えなければ、そんな空語を弄しているうちに個性はわけなく失われてしまうものである」(同)
二度とない青春時代だ。本当に訓練してほしい――その心が自分を大きくする。強くする。
ゲーテは自ら望んで、厳しい先輩につきました。
人生、一人では勝てない。成長できない。だから学校がある。友人がいる。人と人の間にいるのが「人間」です。
ゲーテにとって、ヘルダーの峻厳な薫陶を受けること、それ自体が喜びであり、感謝でありました。
ゲーテ自身、こう語っています。
「自己満足、うぬぼれ、虚栄、自負、高慢といったような、私の心中に巣食い、あるいは働いていたいっさいのものが、きわめて厳しい訓練にさらされることになったのは、なんとしても幸福といわざるをえなかった」(同)
訓練してくれる人がいるということが、成長を目指す人間にとって、一番幸せな場合がある。
かといって、威張った傲慢な人間に見くだされては不幸です。見極めるのは皆さんです。自分が聡明さをもつことです。
一、ゲーテは語っています。
「人間が一人でいるというのは、よくないことだ」「ことに一人で仕事をするのはよくない。むしろ何事かをなしとげようと思ったら、他人の協力と刺戟が必要だ」(山下肇訳)
一人でコツコツやることは大事です。しかし、それだけでは、大業は成し遂げられない。
◆ 今、人生の骨格を
一、ゲーテは、20歳前後の学生時代に、詩人、作家としての骨格を築いていった。
20歳前後は一番大事です。多くのことが、ここで決まる。私の体験からも、そう言えます。
「自分自身の骨格を築く」ことが、学生時代、青年時代の一つの目的であることを忘れてはなりません。
後に、75歳のゲーテは、進路の相談に訪れた青年に対して、「重要なことは」「けっして使い尽すことのない資本をつくることだ」(同)と諭し、その青年にふさわしい道へと導いていったことも有名な話です。
このことを、よく思索してもらいたいのです。
青年は、自分自身の目的を真剣に見つめよ!
そのための揺るぎない土台を完壁につくれ!
これもまた、ゲーテの人間学の一つでしょう。
ゲーテの言葉に、「いやしくもなんらかの道にたずさわる人は、最高のものをめざして努力すべきである」(小栗浩訳)とある通りです。
2003.03.10
人間ゲーテを語る(創価大学第1回特別文化講座)
*******
学園・創大と通わせてもらって、周りは誉めてくれる人ばっかり。
大学3年の時に、厳しく訓練してもらった学生部本部牙城会。
そして、冷酷に成績を突きつけられるロースクール。
ありがたい話だよね(笑)
これから、もっともっと厳しい人に出会いたい。
もっともっと自分に厳しい人間になりたい。